Research

 多数の電子がひしめき合って存在する物質中では、個々の電子が有する電荷、磁気および軌道の自由度に起因した多彩な協力現象が観測されます。本研究室では 10 万気圧級の高圧力、極低温、高磁場を複合的に制御した多重極限環境下において電子系が織りなす新奇な現象を探索し、その起源の解明を目指した実験的研究を行っています。

Research Topics

<励起子絶縁体における圧力誘起半導体-半金属転移と超伝導>

近年、半導体・半金属境界付近に位置する層状遷移金属カルコゲナイド Ta2NiSe5 において、電子と正孔の束縛状態である励起子が凝縮した励起子絶縁体が実現している可能性が指摘され、実験・理論の両面から世界的に活発な研究が行われています。本研究グループでは10万気圧級の高圧力域までのTa2NiSe5の圧力-温度相図を初めて実験的に明らかにしました。励起子相互作用が小さくなる高圧半金属相では、電子-格子相互作用が関与した部分ギャップが出現することを見出し、そのギャップが消失する圧力近傍で超伝導が出現することを発見しました。


<軌道自由度に起因する量子相転移近傍における重い電子超伝導の発見>

 最近、超伝導の発現機構として軌道自由度の重要性が議論されています。PrTi2Al20の基底状態は非磁性で軌道自由度のみを有することから、四極子(軌道)秩序と超伝導の相関を調べることができる格好の研究対象です。本研究グループでは、強四極子秩序が圧力によって抑制される近傍において、重い電子超伝導が発現することを発見しました。本研究の成果は強四極子秩序の抑制にともなう軌道ゆらぎを媒介とした超伝導発現の可能性を強く示唆しています。10万気圧を超える圧力域での電子状態について、より詳細な研究を現在も進めています。


<磁気および価数状態の不安定性に起因する新奇な量子臨界現象>

 希土類金属間化合物YbNi3Ga9において、圧力誘起磁気秩序が出現する圧力付近で、価数クロスオーバーと価数揺らぎの量子臨界現象が関係した磁化の急激な増大を観測することに成功しました。本研究の成果はYb系化合物も含む多くの重い電子系物質において、スピン揺らぎの理論では理解できなかった非従来型の量子臨界現象において価数の不安定性が果たす重要性を示すものであり、新しい量子臨界現象の起源を解明する上で重要な指針を与えることが期待されます。


<良質な高圧力環境下での鉄系超伝導体およびトポロジカル絶縁体の温度-圧力相図>

 一般的に物理的圧力は元素置換による化学圧力効果と比較して系に与える乱れの効果が小さく抑えられると考えられますが、実際には高圧力の「質」の違い、すなわち非静水圧効果によって異なった実験結果が得られることが数多く報告されています。本研究グループでは、圧力誘起超伝導を示す鉄系超伝導体母物質およびトポロジカル絶縁体の良質な高圧力環境下での電子相図を調べることにより、非静水圧効果が物性に与える影響を明らかにしました。


<クロムおよびマンガンを含む磁性体における圧力誘起超伝導>

銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体では、磁気秩序が消失する近傍で超伝導が発現することが明らかとなっていますが、クロムやマンガンを含む化合物では磁性が消失する領域に位置する物質の例は少なく、超伝導も発見されていませんでした。本研究グループでは、類似の磁気構造を有するCrAsとMnPにおいて、磁気秩序が消失する臨界圧力近傍で超伝導を示すことを発見しました。